東京高等裁判所 昭和32年(ネ)1988号 判決
控訴人は、「その主張する事由により本件農地に対する買収処分は違法であり、取消をまつまでもなく当然無効である。」と主張するに対し、被控訴人は、「本訴は前記行政処分取消訴訟の判決の既判力に牴触するから却下さるべきである。」と主張するから按ずるに、成立に争いない甲第四号証によれば、前訴における東京高等裁判所の判決(右判決に対する上告が棄却されたことは当事者間に争いがない)中、本件農地に関する部分は、「いずれも自作農創設特別措置法第三条第五項第一号に該当する農地であり、かつ控訴人は自作地二町一反五畝十一歩を有するところ、山梨県における同法第三条第一項第三号の保有限度は二町一反歩であるから、買収可能の限度内である本件農地についてなされた買収計画は適法である。従つて控訴人の異議を採用しなかつた訴願裁決もまた正当である。」という理由に基ずいて控訴人の請求を棄却したことが認められる。ところが、控訴人は、本訴の請求原因の一として、「前訴の判決において農地と認定された二町一反五畝十一歩(控訴人の計算に従えば二町一反四畝二十五歩)の中には一反三畝十三歩の非農地が含まれており、それを除外すれば、本件農地を加えても諏訪町(現在牧丘町)における保有面積二町一反に及ばない。且つ本件農地はいわゆる粗放耕作地ではないから、右農地に対する買収処分は無効である。」と主張しているのであるから、少くとも本訴請求原因の一部に関する限り前訴の判決における認定事実に牴触している。しかしながら、行政処分の取消を求める訴において、原告の請求を棄却した判決は、その請求原因によつては当該行政処分の取消を求める権利のないことを確定するにとどまり、原告がその請求原因として主張した事実の存否についてまでその既判力を及ぼすものではないと解するのを相当とする。従つてたとえ控訴人が前訴において主張し容れられなかつた事実であつても、訴訟物を異にする本訴においてその事実を請求原因として主張することは妨げないものというべきであるから、被控訴人の既判力の主張は理由がない。
また、控訴人は、「被控訴人が控訴人から本件農地を不当な安価で買収しながら、これを同一価額で第三者に売り渡したのは国民の権利を差別扱いしたもので、憲法第十四条、第二十九条、第九十八条に違反する。」と主張するが、右買収価額が憲法第二十九条第三項にいう「正当な補償」に該当すると解すべきこと上叙のとおりである以上、これと等しい価額を以て右土地を第三者に売り渡すことは毫も憲法第十四条に違反するものではない。けだし、憲法第十四条に定める法の下における平等の原則も、公共の福祉のための制約を受けることは憲法第十二条、第十三条に照らして明らかであると共に、この平等の原則それ自体が、あらゆる場合、あらゆる点で国民が絶対に平等であることを要求しているものではない。換言すれば平等の要請そのもののうちにも当然に合理的な制限が包含されているものであつて、合理的な差別はその違反に当らないと解するを相当とするからである。自作農創設特別措置法に定める農地の買収、売渡は農地の民主化という公共の福祉の見地から定められたものであるから、この実施により、実質的には利益を享け、或は不利益を蒙る者が生じる結果を招来しても、それは憲法第十四条に定める平等の原則に違反するものではない。従つて本件買収処分が同法条および憲法第二十九条、第九十八条に違反し当然無効であるという控訴人の主張は理由がない。
(奥田 岸上 下関)